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2004/10
京都大学医学研究科長・医学部長 成宮周教授 芝蘭会会長に就任


芝蘭会会長就任挨拶
京都大学大学院医学研究科長・医学部長 成宮 周

 この度、10月1日から本庶佑前医学部長の後任として、医学部長・医学研究科長に就任いたしました。決りにより芝蘭会会長を兼任いたすことになりましたので一言ご挨拶申し上げます。
 ご承知のように現在、医学部は、何十年に一度という2つの大きな変革の時期に遭遇しています。1つは本年4月1日より国立大学法人になったこと、2つめは、これまた本年4月より新しい卒後臨床研修プログラムが始まったことです。前者では、法人として毎年国から与えられる運営費交付金という決った額のお金の中で大学と病院を運営することが求められています。また、後者では、多くの本学卒業生が本学医学部附属病院以外の医療機関で卒業後の初期臨床研修を開始することとなりました。
 私は、このような状況下、京都大学が、大学の教育・研究・医療の場としての意義を改めて明らかにし、社会に向け発信することが大変大切であると考えています。大学が学問の場であり、京都大学医学部が我が国の医学の指導的立場にあったことは論を待たないところです。人類にとって知の集積はa prioriに重要であり、大学の一義的な意義はここにあります。しかし、知の中身は時代とともに変遷するものであり、現在医学にとっては3つのレベルでの知の展開が求められていると考えます。1番目は、生物学としての医学です。現今の生物科学の発達により、医学と生物学の境が全くなくなった状況では、医学部とそのほかの学部の有機的なつながりを推進し、生命とひとの生理の本質により迫る研究を展開する必要があります。2番目は、病気の生物学です。上記の医学生物学の進展は、必然的に病気の生物学の発展を促してきたのであり、現在では、病気の成因、病態の機構を生物学の言葉で解説することが可能になっております。病気の生物学の遂行には、様々なdisciplineから成る医学教育を受けた者が不可欠です。京都大学医学部には卒業生の大半が卒後に研究を行うという伝統があります。すなわち、我々は、この伝統を踏まえ、京都大学医学部を我が国におけるPhysician Scientistの育成の場として機能させることに務める使命があると思います。3番目は、臨床科学です。Evidence-based Medicineという言葉が言われだしてから久しいのですが、これを体系的に教育する場は未だ不十分です。基礎医学と病気の生物学の成果が、続々と臨床の場に流れ込んでいる現在、このような場を早急に用意する必要があると考えます。幸い、京都大学医学部には、探索医療センターや社会健康医学系専攻があり、これに対処する力が備わってきていると考えております。今後、京都大学医学部、医学研究科としては、上記の3つの方向性を十分意識して、学部・大学院の教育と整備に当りたいと考えております。
 上記の教育・研究の場としての大学に加え、これらに劣らず大事なのが、臨床と医療の場としての大学です。医学部附属病院が地域のMedical Centerとしての役割がある以上、各々の患者さんに現在行われている医療のなかでベストの医療を提供することは当然ですが、これに加え、他の機関で成しえない、新しい医療手段を開発する先端先進医療と探索医療の展開が大学としては大変重要と考えます。ご存知のように田中紘一教授の推進された生体肝移植は本附属病院で発展し、本附属病院は我が国のみならず世界での生体肝移植のセンターの一つになっております。今後は、このような先端先進医療をエピソードとしてではなく、如何にシステムとして開発していくかが大事と考えます。これは、国立大学法人の中での経営を含む附属病院のシステム再構築の研究で考えていくべき問題と捉えています。更に、このような先端先進医療を含む臨床活動を大学院の中でどう位置づけるかも課題です。これまで、診療活動と大学院での研究活動はdissociateしていました。ここに、大学院における臨床科学の確立が必要な所以があります。以上、京都大学医学部は、大学を巣立った若者がその後の発展のため帰ってくる場を整備しようとしています。また、若い人たちにできるだけ多くのチャンスを与えるため、民間からの資金を含む外部資金による特任教員の雇用システムをつくりました。是非、多くの卒業生が活躍の場を求めて帰ってくることを願っています。
 さて、法人化されました京都大学医学部にとっては、芝蘭会の会員の皆様とのコミュニケーションがより大切になりました。これまでは、ともすれば一方的なコミュニケーションで終わっていましたが、今後は相互のコミュニケーションが必要となって参ります。これは同窓生の多数の方が勤めておられる関連病院との関係でも同じです。大学で臨床研究の技法を身に付けた医師が関連病院と大学の間でシャトルするのが可能であるように考えて行く所存です。
 小生としましては、まことに、多事多難の折りに学部長の重責を担うことになりましたが、この御挨拶にまとめましたことを一つ一つ実行していくことで何とか責任を果たしたいと考えております。芝蘭会の皆様の御指導、御鞭撻のほどお願い申し上げます。


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